☑︎結婚式や一周忌にも呼んでくれる
大月:うちらがいた20日間で、結婚式とか、ああいう式典みたいなものに2回行ったか。
サトシ:そうですね、初日に誰か知らない人の一周忌に行きましたね。
大月:そうそうそう(笑)。初日に島を一周してたら、大量の魚をさばいているおっさんがいて、カトちゃんが急に話しかけに行って、俺らまだ地元の人との距離感がわからないじゃん。カトちゃん知り合いなのかなーって思ってたら、全然知らない人で(笑)。それで、なんかその流れで魚さばいてるおっさんの親族の一周忌に呼ばれちゃって。
サトシ:あれは、衝撃でしたね。ツバルの洗礼というか。「え、俺ら一周忌に行っちゃって良いの?死んだ人の名前すら知らないんだけど」みたいな(笑)
イアン:僕らは40日滞在したので結婚式とか、けっこー呼ばれて行きましたね。
ニーナ:行った行った。
大月:何で他人の俺らを招いてくれるんですかね?
遠藤:参加するということは敬意を払ってるということになるんだよ。だから参加者は多い方が良いってなる。
大月:あー、そうなんだ。だから誰が来ても構わないんだ。一周忌っていっても神妙な儀式とかじゃなくて、むしろパーティーって感じでね。
サトシ:結婚式とか祝いの席だけじゃなく、一周忌とかでも楽しもうっていうのが良いですよね!
遠藤:そう。死者を弔いつつ、たくさんご飯作ったからお腹いっぱいになるまでみんなで食べようという。
サトシ:ああ、確実に残る量の食べ物が出てきますもんね(笑)。
遠藤:結婚する家族の女性たちが、1週間ぐらい前からすごく忙しそうに準備を始めるんだよね。そりゃ余るよっていう。
イアン:まあ一応残飯は豚の餌としてるから無駄ではないですよね。
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☑︎お祝いの席のツバルの伝統的な食べ物
サトシ:結婚式とかああいう式典は、ツバルの伝統的な食べ物が大量に並んで食い放題。
大月:タロイモ料理とかね。タロイモを揚げるか、焼くか、蒸すかしたもの。それからココナッツミルクで味付けされた煮物とか。
イアン:自分が衝撃だったのは、ロロイカっていう料理で、生魚をぶつ切りにしてココナッツミルクやタマネギと混ぜたやつ。おかわりはもういいかなーってなる味(笑)
大月:あと、ネチョネチョした茶色くて甘いペースト状のやつ。
イアン:あー、はいはい。ココナッツをペースト状にしたやつね。あれは美味しかった。
サトシ:俺、全ての料理を食べてやろうと思って、端から順に全て皿に取ってったら、8割方タロイモ料理で。おかわり行きたいのに、タロイモが喉に詰まって皿が空かないという。それで、「飲み物!飲み物!」ってお願いしたら、甘ったるいミロが出てきて。
ニーナ:パーティーだと大きなポリバケツにミロが入ってて飲み放題なんだよね。
サトシ:ガバっとバケツからすくって飲む感じで。
大月:日本だと食事中はお茶系か水なんだけど、その感覚でミロなんだよな(笑)
イアン:他に美味かったのは、皮だけはいだ魚をそのまま、生の塊をこうやって塩であえたもの。
大月:うそっ、そんなもの並んでた?生モノは敬遠してたから食ってないや。
イアン:大月さんはビビッてたから(笑)。
サトシ:本当に生モノには絶対手を出さなかった。
大月:そうそう。生モノ怖いから。実際、リリアン*が案の定、食中毒になってたじゃん。
*ツバルに1週間ほど滞在した友人
サトシ:あれは確実に貝だと思う。美味い美味い言って生の貝をむしゃむしゃ食べてたから(笑)
大月:結局リリアンは病院に行ったんだけど、病院は旅行者でも無料なんだよね。
イアン:あとは、結婚式で欠かせなかったもう一つ、豚の丸焼きですよ。必ず出てくる。
大月:お祝いの時用に豚飼ってるんだよね。
イアン:個人的に超衝撃だったのは、ある結婚式で、亀のでっかい甲羅がポカーンとカウンターの真ん中に置いてあって、その中に亀の炒め物みたいなやつが入ってたんですよ。
サトシ:えー!亀の炒め物!?
イアン:そう。亀の甲羅が器になってて、その中に亀の肉が炒められて入ってた。亀は貴重なものだから。
大月:ごちそうなんだ。炒め物は何味なの?
イアン:味付けは他の炒め物と一緒。塩コショウで。ただチキンが亀だったって感じ。
ニーナ:ワハハ。
イアン:亀自体の味はなあ、魚臭い鶏肉って感じ。
遠藤:そう、カツオの血合いみたいな、
イアン:そう、まさにそんな感じでした。
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☑︎参列者からのプレゼント
イアン:結婚すると参列者から新郎新婦にプレゼントを渡すという文化があって、渡す時間が結婚式の中であるんですけど、大家族になってくると、100人くらい片手にプレゼントを持って並ぶんですよ。
大月:プレゼントって何?
イアン:シャンプーとかそういう日用品。ちゃんとこういう丁重な包装に包んで。渡したら、音楽が流れてるから踊り出して。
サトシ:女の人の踊りが面白いよね。
大月:女性の方がユーモアがある。結婚式とかでもはっちゃけて、すごい笑わせてるのは女性なんだよね。男性は狭い家族社会ならではの地位とかプライドってのが実はあるんだよね。
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☑︎聖水をかけられて、認められた気がした
大月:踊っている人に聖水という名の香水をシュッシュッって吹きかける文化があるよね。あれ、何なの?踊りが上手い人に対して聖水をかけるの?
遠藤:あれは踊って式典を盛り上げてるあなたに敬意を払うということ。サモアから始まったことで、それを真似し始めたの。最初はツバルに香水がなかったからか、ベビーパウダーをぶつけられたんだよ(笑)
ニーナ:ハハハ。めっちゃ迷惑だ。
遠藤:真っ白になる。一体これは何をしてるんだみたいな。それが今は香水になってる。
サトシ:香水をかける役割って決まってるんですか?
遠藤:いや、誰でもいい。自分が敬意を払っているところをみんなに見せておこうかなって感じで。
サトシ:そういえば、俺ら聖水かけられたね。
イアン:うん、サトシと2人でいる時に、太鼓みたいなリズムが聞こえてくるなって、ある集会所を覗いてみたらみんなファーテレっていう伝統的な踊りの練習してたんですよ。その中に「アホな走り集」に出てくれたヤツがいて、そいつが一緒に踊らない?って誘ってくれたんです。で、一緒に踊ってたら、その場にいたおばあちゃんが聖水をかけてくれて。
サトシ:嬉しかったね。認められた感じがした。
イアン:ちょっとおしっこ臭かったよね。
サトシ:え!聖水ってそういうこと?(笑)
イアン:嘘うそ(笑)
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☑︎こんなことで大爆笑する?魚取り大会
サトシ:魚採り大会がありましたね。みんな大爆笑してて楽しそうでした。
大月:そうそう、ある離島出身の人が集まって2チームに分かれて魚を捕る大会。負けた方は顔を黒く塗るというのをヒャッヒャッ言いながらやってたよね。「イヤー、ヒャヒャヒャー!」って爆笑しながら顔を黒くして(笑)。
サトシ:最後は魚を配っておしまい、っていう。
イアン:その後、みんなでスピーチ大会もしてましたね、順番に喋りたい人が立ち上がってスピーチして。で、一人の小柄なおじさんのスピーチがもう会場中大爆笑で。
大月:ヒャッヒャッ言ってね。あと、ニーナが立ち上がったら爆笑起きて。
サトシ:そうそう。立ち上がったらスピーチするっていうルールがあって。皆ニーナがスピーチするのかと思って。
ニーナ:するわけないでしょ(笑)。
サトシ:なんか、笑いのハードルが低いですよね。
イアン:それはすごく感じた。顔を黒塗りにしただけで、それ見て大爆笑できるって、幸せだなーって。
遠藤:本当ね。
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☑︎ウムについて
サトシ:伝統ってことでいうと、ウムっていう壁がない家があって。コンクリートで出来た家もあるけど、隣にはウムがある、みたいなのがよく見られる住宅でしたね。
大月:ウムのことはなんて説明したらいいですか?
遠藤:うーん、まあツバルの伝統的な家かな。
イアン:東屋じゃないですか?
遠藤:今は母屋が別にあって東屋のような使い方をしてるのも多いけど、元々はウムが家なんだよ。
イアン:屋外リビングのような使われ方をしてて、TVが置いてあったり、暑い日はゴロンと横になって昼寝をしてましたね。
サトシ:ゴロンと横になってタブレット端末で韓国ドラマとか見てるんですよね。
大月:あれ絶対違法に入手してるよな(笑)
遠藤:夜も母屋で寝ないでウムで寝る家庭もいるんだよ。
イアン:涼しいんですよね、やっぱり。コンクリートブロックの家ってすごい暑いから、だからみんな夜になって出てきて。
遠藤:あの屋根が涼しんだよ。パンダナスの葉っぱできてて、ツバルの気候には適してる。
大月:晴れてる日は壁のない家がいいけど、暴風雨の日は壁が欲しいみたいな。
イアン:あと、僕らも大体はウムで夜飯食ってたじゃないですか。そこですよ、僕が最初にネズミと出会ったのは。ビチビチビチって音がして、「何ですか?」って聞いたら遠藤さんが「ネズミだよ」つって。そしたら上からポトッってうんこが落ちてきて(笑)
大月:そうなんだよ。俺も一回くらった。膝の上にポトッって。
イアン:あとは急に10匹くらいのゴキブリが四方八方から飛んできたことがあって!
サトシ:えー(笑)!?
イアン:ウムの中をブワーーって。それがツバル着いてすぐの出来事だったから「ヤバイとこ来ちゃった、、」って。
大月:いやー、俺らそれに遭遇しなくてよかったな。
サトシ:そんなことあったら、速攻で帰ってました、俺。ゴキブリまじ怖いっす。
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☑︎仕事よりも家族を優先。ツバル人の家族感
大月:これも伝統と言えると思うんだけど、ツバル人の家族感が日本人とは違いすぎてビックリした。
サトシ:あれは驚きましたね。インタビューをしてても、一番大切なものは何ですか?って聞くと「家族!」ってみんな即答してて。
イアン:そう。家族あっての自分、みたいな感覚が彼らの根底にあるんですよね。
大月:しかもその家族の範囲が核家族のことじゃなくて、一族全体のことを指してる。
遠藤:だから離島からフナフティに遠縁の親族がやってきたら、一緒の家で暮らして、その人が仕事を見つけられなかったら、養うっていう構造が出来てるんだよ。
大月:ああ、ラサロ*みたいな(笑)
*ラサロについて詳しくは(「ツバルに島唄を響かせるチョイ壊れオヤジ・ラサロ」)
サトシ:あとフナフティって昔は54個の家族しかなかったって聞きました。だから、地域のコミュニティの中でも家族の果たす役割が大きいんでしょうね。
イアン:日本だったら、戦前のとか、古き良き理想の家族像みたいに語られてるような感じ。
大月:でも、出勤中でも道ばたで家族に会うと、仕事ほっぽり出して家族のところにいっちゃうらしいじゃないですか(笑)
遠藤:そうなんだよ(苦笑)。
イアン:のどかでいいなあ〜、って思いつつ、それでどうやって社会が回るんだろうって。
サトシ:アイランドチーフのシリンガにインタビューした時に、国家公務員の7割があんまり仕事をしてないって言ってましたよね(笑)
大月:別に政府が腐敗してるって感じじゃなくて、単にゆるいだけっていう感じがしちゃうのも面白いんだけど、冷静に考えると腐敗してるよな(笑)
サトシ:腐敗とまで言えるのかわからないですけど、まあ日本の感覚で考えたらすごいゆるいですよね。
イアン:家族内の結びつきもあるけど、同じように島単位での結びつきっていうのも強くて、それを「アイランドイズム」って呼ぶんだって聞いた時には驚いた。
大月:そんなイズムがあるのか!ってめちゃめちゃ興味深かったな。
サトシ:ツバルっていう国家(ナショナリズム)になってまだ40年くらいしか経ってなくて、元々のツバルにあったシステムはアイランドイズムなんですよね。
遠藤:アイランドイズムっていうのは良いことばかりではなくて、例えば国家公務員があまり働かないって話も、権力がある人が同じ島の出身者をどんどん公務員として採用しちゃったり、学生とかに奨学金をあげちゃったりとか、日本でいうと縁故の文化みたいな悪い側面もあるんだよね。
イアン:家族や自分が生まれた島を大切にするという考えが伝統的に残っていて、それが現代の生活と亀裂を生んでる側面もあると。
サトシ:家族を大切にする、一見正当性のある文化にそういう側面があるのも面白いですよね。実は家族を大切にしなければいけない理由が、土地の所有の問題からきてるって話もあるんですよね。
*土地の所有やアイランドイズムについて詳しくはこちら「島のチーフ・シリンガ氏に聞く、ツバルの歴史」