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2018.05.20

ツバルの気候変動と海面上昇

執筆担当
田村聡
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☑︎ツバルの気候変動と海面上昇

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2005年を過ぎた頃から、ツバルは環境問題のシンボルとしてメディアに頻繁に取り上げられるようになり、「地球温暖化によって、最初に沈みゆく悲劇の国」のような見出しとともに、下にあるような写真を見る機会が多くなりました。

実際に私も中学校の授業で、この発電所の前が水浸しになっている写真を目にし、子供ながらに衝撃を受けたことを覚えています。

↑発電所の前が水没している

ここで誤解をしないでほしいのですが、ツバルが常にこのように浸水した状態といわけではありません

平常時には水はなく、海面の高くなる満潮の時にだけ、標高の低い地域で地面から溢れ出た海水の下に沈みます。

ツバルはサンゴ礁の上に砂が堆積してできた島なので地盤がスカスカで、満潮時に海面より低くなる地域では、地盤の穴を通じで海水が滲み出てくるのです。

↑このように地盤の穴を通じで海水が滲み出てくる

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☑︎キングタイド:島中が海水に浸かる日

ツバルで平均潮位を測定すると季節によってその値は上下しています。潮汐による干満の差が大きい時では、潮が引いた時と満ちた時で水位の差がなんと2mを超すこともあります。

潮が最も高くなる1月から3月の満潮時を、ツバルの人々は「キングタイド」と呼びます。巷でよく見かける、浸水した写真はすべてキングタイド時に撮られたものでしょう。

首都フナフティがあるフォンガファレ島の平均標高は1.5m、最も高い地点で4mしかありません。なので、キングタイド時には島のいたるところで浸水が起きており、上の写真にあるような発電所の前や集会所の前、そして全体が浸水してしまう集落などもあります。

↑カバトエトエ集落ではキングタイドの日は集落全体が冠水してしまう

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☑︎キングタイドの被害は深刻化している

キングタイドによる浸水は温暖化によって初めて生じたというわけではなく、ツバルの島の構造上起こるべくして起きている現象で、昔から観測されています

ツバルの島はサンゴ礁の岩盤の上に、波によって運ばれてきたサンゴのかけらや有孔虫の殻が積み重なってできています。そのため、海岸付近では運ばれてきたそれらの物が堆積して盛り土のように高くなっていて、内陸部は低いままの凹んだ構造となっています。

そのため、キングタイドの時など、海面が内陸部より高くなるとスカスカのサンゴの地盤を通り抜けて海水が湧き出て、内陸部を浸水させるのです。

↑海面がある一定の高さを超えると、標高の低い地域は浸水する

しかしながら、近年その地面からの湧き出しによる浸水が深刻化しつつあると住民は証言しています。例えば、昔は浸水しても足首辺りだったらしいのですが、最近は膝まできます。

特に2018年のキングタイドは平年に比べて潮位が高く、普段は浸水しないような小道でも浸水が観測されていました。

カバトエトエを訪れた時に、20年間ツバルで活動をしているNPO Tuvalu Overview代表理事の遠藤氏が「こんなひどい浸水は見たことがない」と言うほどで、2018年のものはまさに過去最大級のキングタイドだったといえるでしょう。

↑2018年には今まで浸水が観測されなかった地域でも浸水が観測された

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☑︎キングタイドの被害って何で深刻化してるの?

深刻化するキングタイドは、海面上昇の影響が表面に表れてきたことのように思えました。

また、太平洋島嶼国支援検討委員会の座長を務める大阪学院大学の小林泉教授によると、キングタイドの被害が顕著化している原因は海面上昇だけでなく、人口増加によって今まで人が住んでいなかった低い土地に人が住み始めたためでもあるそうです。

例えば、以前は沼沢地だった場所や、第二次世界大戦中に米軍が飛行場を作るために土砂を掘り起こした穴(ボローピット)の近くにも、人が住み始めたのです。

↑滑走路の横でも浸水はおこっている

それに加え、キングタイドが深刻化する理由として世界的な気象条件も関わってきます。

過去最大級に潮位の高かった2018年は、太平洋赤道域の中部と東部の海水温を下げる反面、ツバル周辺の海水を温め、海面を一時的に上昇させるラニーニャ現象の影響も大きかったそうです。
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☑︎ツバルで身近に感じた海面上昇

ツバルの人々は地下水をくみ上げて飲料水として使用してました。しかし、30年ほど前から井戸水が、塩害を受けて飲めなくなってしまったそうです。そして、今はもう豚小屋の掃除やトイレを流す水としか使えなくなってしまいました。

↑今は使われることのなくなってしまった井戸(引用:NPO法人ツバルオーバービュー

また、ツバルの伝統的な主食はタロイモで、昔は多くの畑で育てられていたそうですが、ここ20年ほどでタロイモは育たなくなってきたそうです。

というのも、海面上昇によって海水が畑に入ってきてしまい、枯れてしまっていると考えられます。

↑タロイモが塩害で育たなくなってしまった(引用:「ツバル人環境活動家ティロウさんをCOP20に参加させたい」

これらの被害に加えて、ビーチがなくなってきているという話も聞きました。それも、まだ20才そこそこの若者からの話で、彼女が子供の頃から比べてビーチの大きさが小さくなったのだそうです。

下の写真は1977年のキオア*の海岸なのですが、40年前は広くあったビーチも現在は削られて、おくの家に住む人はいなくなり、廃墟のようになっています。

↑*キオアについて詳しくはこちら「フィジーに存在するツバル人が住む島:キオア」

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☑︎データが教えてくれる海面上昇の現実

International Panel of Climate Change (IPCC、日本名:気候変動問題対策パネル)は2013年に発表した第五報告書の中で次のように発表しています。

「気候変動が最悪のシナリオで進んでいくと、2090-99年には1990-99年に比べて世界的に52-98cmの海面上昇がある。」

しかも下の図にあるように、ツバル周辺は海面上昇の著しいエリアとなっています。

↑海面上昇著しいエリア図(引用:宇宙技術開発株式会社衛星画像データサービス

また、オーストラリア国際開発局が1993年以降継続して行っている計測によると、ツバル周辺の2008年までの過去15年間の平均潮位の上昇傾向は、5.9mm/年だったといいます。

残念ながら、海面上昇が起きていることを示す科学的根拠となるためには40年間分のデータ観測が必要なのだそうですが、少なくとも、この期間についていえば、なんらかの理由によりツバル周辺の平均潮位は上昇傾向にあったと言えます。

↑オーストラリア国際開発局が首都フナフティに設置した潮位計(引用:NPO法人ツバルオーバービュー

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☑︎私たちの暮らしと気候変動

日本にいると、このような気候変動や海面上昇などによる被害を受けることはほぼないので、どこか遠くの話に聞こえてしまいます。

しかし、実はこのまま海面上昇が進むと日本でも被害が出てくるのです。

↑2度、4度上昇した場合の東京都周辺のシミュレーション地図(引用:Surging Seas

この図は、右側が2度、左側が4度気温が上昇した場合に海の下に沈んでしまう箇所をシミュレーションした地図です。

水色の箇所を見ていただければ分かる通り、2度上昇しただけでも東京の東部と沿岸部が、4度上昇となるとより広いエリアが海の下に沈んでしまいます。

また、東京だけでなく大阪や福岡などの日本の主要都市は大きな被害が出てきます。

↑2度、4度上昇した場合の大阪府周辺のシミュレーション地図(引用:Surging Seas
↑2度、4度上昇した場合の福岡県周辺のシミュレーション地図(引用:Surging Seas

もし私たちが、このままの経済活動を続け、二酸化炭素を出し続けると、世界の平均気温が50年後には2度前後、100年後には4度前後上昇すると言われています。

そうなった場合、大きな被害を受けるのはツバルのような海抜の低い国だけではなく、私たちが暮らす日本にとっても他人事ではないのです。

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☑︎「沈みゆく楽園ツバル」は本当に沈むのか?

ツバルから帰国してから「ツバルって本当に沈むの?」という質問をよく受けます。沈む、沈まない、という結論を求めたい気持ちはよくわかりますが、その質問には誰も答えることができません。世界中の専門家たちが今も尚、調査を続けていて「このままでは沈んでしまうであろう」と言われています。

そして、多くの島民は海面上昇を実感しています。漁師をやっている人などは海に出ると、潮の高さが変わってきていることがわかるのだそうです。

そんな中、ツバルに実際に行ってきた私が言えることは、今現在ツバルでは海面上昇に関連しているであろう様々な被害が起きているということです。

それらの影響を目の当たりにすると、私たちの普段の生活が引き起こしている気候変動が、彼らの生活に影響を与えているということを如実に感じます。

私たちが当たり前のように受け取っている便利さや快適さは、彼らの暮らし、そして私たちの未来の暮らしに影響を与えてまで欲しいものなのか、そういったことを考えさせられました。

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